第四章|どん底から、ようやく踏み出した一歩

夜の街を走るタクシー
▲ タクシーはめずらしい出会いや発見があり、とても楽しい

全財産を失っても、生活は続いていきます。
僕は29歳になっていました。20代最後の年。
「そろそろ、やり直しがきかない年齢だ」──そんな焦りが、胸を締めつけていました。

貯金はゼロ。
いや、正確には奨学金なども含めた借金で、純資産はマイナス700万円超え。

心のどこかで、また“楽に稼げる道”を探してしまいそうになる自分がいました。
でも、それを必死に抑え込んでいたんです。

──もう、夢や幻想じゃなくて、地に足をつけて稼ごう。

そう決めて、僕が選んだのは「タクシードライバー」でした。
都内のタクシー会社に就職し、昼夜を問わずハンドルを握る日々が始まります。

最初のころは道を間違えて、何度もお客様に謝ってばかり。
それでも──三つ子の頃から車が大好きで、運転も得意だった僕は、少しずつ確かな手応えを感じていきました。

「この仕事、もしかしたら天職かも」

思い返せば、物販の仕入れで1日中車を走らせていたときが、いちばん楽しかった。

売上も次第に伸び、3ヶ月の研修期間を終える頃には、安定して上位20%に。
その後も徐々に順位を上げ、トップ10入りすることも珍しくなくなっていきました。

「働いて、お金を得る」──
そんな当たり前の喜びを、僕は改めて噛みしめていました。


物販のほうにも、再就職して間もない頃に転機が訪れます。
法人化している仲間(ビットコインを教えてくれた人)が、事務所の引っ越しに伴ってこう声をかけてくれたんです。

「山積みになった不良在庫や不用品を売ってほしいんだけど、どお?」

それらを代理出品し、利益を折半。
20万円のドラム式洗濯機、15万円ほどのダイニングテーブルセット、ブランド物の靴など、高額な品も多く、全てを売り切るのに1年以上かかりましたが、本当に助かりました。

その売上とタクシーの給料を合わせて資金を貯め、20万円を超えた頃に本格的な仕入れに着手。
Amazonセラーとしての活動を再開します。

休みの日には仕入れに出かけ、
明け番(深夜3時頃に帰宅して、その日は休みになるシフト)には検品・梱包・出荷作業をこなす。
時間をうまくやりくりしながら、「タクシー×物販」というダブルワークで、地道に資金を積み上げていきました。

また、当時在籍していたタクシー会社では、
新人紹介1人につき15〜25万円の紹介料が会社から支給される制度がありました。
これもフル活用し、友人・知人づてに6人ほど紹介を入れて、紹介料も得ることができました。

「お金になることはなんでもやる」
そんな気持ちで、とにかく全力で取り組みました。


そして、30歳。
3年近く付き合った彼女との結婚を決意します。

就職から10ヶ月で120万円を貯め、プロポーズ。
結婚後まもなく、かつてビットコイン詐欺でつくってしまったクレジットカードの負債も、ようやく完済することができました。

──人生が、少しずつ「戻ってきた」と感じた瞬間でした。

どん底を知ったからこそ、手に入れたこの幸せを、絶対に手放したくない。
そう強く願いながら、僕は新たな家庭生活に、静かな希望を抱いていました。


ですが──

幸せの絶頂にいたそのとき、思いもしなかった現実が、静かに近づいてきていたのです。


第五章はこちら(執筆中)

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高峰 凌
36歳/東京近郊在住/妻と二人暮らし/投資詐欺で全財産喪失/ゼロから資産形成→FIREを目指すタクシードライバー