第五章|妻の告白と、命の選択

夜道に座り込む男性
▲ 本当にどうしたらいいかわからなくて、真っ暗だった。

30歳で結婚。

長く苦しかった下積みの果てに、ようやく手に入れた家庭。

タクシーの仕事は決して楽ではなかったけれど、帰れば笑顔で迎えてくれる人がいる。

夫婦で夕食を食べる──ただそれだけのことに、どれほど幸せを感じていたか。

──あのときまでは、確かに幸せだった。

それは突然、訪れました。

31歳になったばかりのある日の21時ごろ、仕事でタクシーを走らせていたときのこと。

妻から突然、1通のLINEが届きました。

──そして届いたメッセージは、想像を超えていました。

凌、ごめんなさい。

寂しさや苦しさから逃げたくて、ここ数ヶ月、夜になると他の男に会っていました。

一度きりじゃなく、何度も。そして、何人も。

自分でも止められなくて……どうしていいかわかりません。

こんなこと、本当は誰にも言いたくなかった。

でも、あなたには伝えなきゃいけないと思った。

原文はもっと過激な内容でしたが、ここではマイルドにしています

このときほど頭が真っ白になったことは、後にも先にもありません。

今でもはっきり覚えているのは、心臓を締めつけられるような感覚を堪えながらスクリーンショットを撮り、

タクシーの表示を「空車」から「回送」に切り替えたこと。

暗闇に浮かぶタクシーの回送表示
▲ 回送にすると行灯の電球が消える——僕の心からも光が消えた。

その後は仕事も手につかず、早退して妻とは別の部屋で眠りにつきました。

そして、わずか1週間後──さらに追い打ちをかけるように、彼女は言いました。

妊娠してた

信じられませんでした。

幸せを築いていたはずのこの家庭で、まさかこんな展開が待っているとは。

どこで間違えたのか。何が足りなかったのか。

そのときは、答えなんて出ませんでした。

でも──彼女のお腹には、新しい命が宿っていました。

たとえ僕が望んだ形ではなかったとしても、その命に罪はない。

「だったら、生まれてくるまでは、穏やかに過ごそう

そう決めて、「許したわけじゃない」と前置きしたうえで、

表面上は何もなかったかのように、夫婦での生活を続けました。

その決断が正しかったのか、いまも分かりません。

でも、あのときの僕には、それ以外の選択肢がなかった。

やがて無事に、長男が誕生しました。

新しい命を前に、素直に感動することもできず、複雑な思いでいっぱいになりました。

そして──この奇妙な「仮面夫婦」の時間は、そう長くは続きませんでした。

第六章はこちら(公開準備中)

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高峰 凌
36歳/東京近郊在住/妻と二人暮らし/投資詐欺で全財産喪失/ゼロから資産形成→FIREを目指すタクシードライバー