
30歳で結婚。
長く苦しかった下積みの果てに、ようやく手に入れた家庭。
タクシーの仕事は決して楽ではなかったけれど、帰れば笑顔で迎えてくれる人がいる。
夫婦で夕食を食べる──ただそれだけのことに、どれほど幸せを感じていたか。
──あのときまでは、確かに幸せだった。
それは突然、訪れました。
31歳になったばかりのある日の21時ごろ、仕事でタクシーを走らせていたときのこと。
妻から突然、1通のLINEが届きました。
──そして届いたメッセージは、想像を超えていました。
凌、ごめんなさい。
寂しさや苦しさから逃げたくて、ここ数ヶ月、夜になると他の男に会っていました。
一度きりじゃなく、何度も。そして、何人も。
自分でも止められなくて……どうしていいかわかりません。
こんなこと、本当は誰にも言いたくなかった。
でも、あなたには伝えなきゃいけないと思った。
▲ 原文はもっと過激な内容でしたが、ここではマイルドにしています。
このときほど頭が真っ白になったことは、後にも先にもありません。
今でもはっきり覚えているのは、心臓を締めつけられるような感覚を堪えながらスクリーンショットを撮り、
タクシーの表示を「空車」から「回送」に切り替えたこと。

その後は仕事も手につかず、早退して妻とは別の部屋で眠りにつきました。
そして、わずか1週間後──さらに追い打ちをかけるように、彼女は言いました。
「妊娠してた」
信じられませんでした。
幸せを築いていたはずのこの家庭で、まさかこんな展開が待っているとは。
どこで間違えたのか。何が足りなかったのか。
そのときは、答えなんて出ませんでした。
でも──彼女のお腹には、新しい命が宿っていました。
たとえ僕が望んだ形ではなかったとしても、その命に罪はない。
「だったら、生まれてくるまでは、穏やかに過ごそう」
そう決めて、「許したわけじゃない」と前置きしたうえで、
表面上は何もなかったかのように、夫婦での生活を続けました。
その決断が正しかったのか、いまも分かりません。
でも、あのときの僕には、それ以外の選択肢がなかった。
やがて無事に、長男が誕生しました。
新しい命を前に、素直に感動することもできず、複雑な思いでいっぱいになりました。
そして──この奇妙な「仮面夫婦」の時間は、そう長くは続きませんでした。
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